ここ数日でいくつか銀行のRPAに関する記事や調査などを、ニュースやTwitterで見て、少し前のUFJの本部人員削減記事をなぜか今更、思い出しました。
メガバンクがRPAで定型業務を自動化して人員を削減っていうのは、既に日経でもガッツリ取り上げられている通りです。
思えば2~3年前に日本でRPAがブームになった時も、アーリーアダプターとして大きく取り上げられたのは銀行や保険会社など、金融業界が中心でした。
日本生命のRPA「ロボ美ちゃん」の入社式が2016年の4月です。
入社式というイベントの前から、PJ自体は動いていたということですし、先見の明に感心しますね。
銀行業とRPA
金融機関の業務とRPAが親和性が高いというのは、イメージしやすいかと思います。
定形事務の業務量が多い
公務員にも近いものがありますが、銀行は法規制の制約を多分に受ける業務ということもあり、顧客との窓口対応でも行内の稟議でも、膨大な量の定型書類・事務の処理に追われており、自動化の余地は元々大きかったと言えます。
横展開が容易
使用しているシステムが異なる、決裁ルールが違う等あるため、全く同じ処理とはいきませんが、実施している業務は基本的に同じものですから、他行の自動化の事例は非常に横展開がしやすく、初めて取り掛かる場合でも、候補案件が抽出しやすくなっています。
店舗数が多い
UFJを例にすれば、2018年3月末時点で833の支店があります。(海外支店を含む)
仮に支店の業務を週に1時間削減する処理が組めたとしたら、年末年始を考慮して1年を51週と考えて、1店舗当たり年51時間の削減になります。
これが833店舗分ですから、もうすでに4万2千時間以上の削減に成功したことになります。
メガバンクを引き合いにすると数値が大きくなりすぎますが、地銀でも数十~百超の店舗がありますから、やはり大きな効果は得やすくなっています。
自動化の余地が大きく、事例も得やすい、それに店舗数というボリュームを効かせることができると、RPAがズバッとはまる業種なのは間違いありません。
銀行を取り囲む過酷な環境
「定形事務が多い」というのも可哀想な側面もあります。
そもそも銀行は公務員とは異なり「営利組織」ですから、地場産業への貢献などのミッションはあれど、カネを稼がなければいけません。
むしろ、数字の達成への厳しさで言ったら、我々IT産業とかより億倍キツいでしょうね、金融畑は。
いや本当さ、目標未達で詰められるって言ってる銀行員。
— オロゴン@お金とライフハック (@orogongon) October 30, 2018
しっかり取引先と向き合ってみ?
ちゃんと定期訪問してみ?
相手の商品だって自腹で買ってみ?
そうやって商流把握してってさ、何て事ない雑談も含めて丁寧に負担かけないように。
そうやって出来るだけお願い営業やめてみろよ。詰められるから
※全然関係ないけれど、オロゴンさん(@orogongon)のTwitterはお金に関するライフハック情報に満ちていてオススメ
銀行だって脳死しながらルーチンワークをこなしているわけではなくて、利益を追求するために、事務の効率化を進める動きは当然やってます。
ただ、苦労して新システムの導入とか事務の見直しとかで業務工数を削減したところで、すぐに「新しい規制を導入しまーす!」「法改正で手続きが変わりまーす!」なんてお上から降ってくるわけで、事務に追われるスパイラルから抜け出す日なんてやってきません。
そうでなくても銀行を取り囲む環境って酷すぎるんですよね。
日銀「マイナス金利継続!貸し渋らず市場にカネを回せ!」
って言われてるのに、スルガ銀行の不正融資なんかもあって、
金融庁「その融資本当に適性なんか?もっとちゃんと審査しろ!」
ですからね。
挙句、Fintech等の新興サービスが「ウチなら銀行より簡単に資金調達できるよ!」といって融資先を奪っていったり。
(こういったサービスによる資金調達も全てが肯定的に受け取れるものではないですけど)
「じゃあカードローンの販売に注力しよう!」としたら「貸しすぎ!総量規制!!」で自主規制。
(そもそも当時のカードローン競争は異常でしたから、規制してしかるべきものと思っています)
喧しいお上に怒られながら、近隣の他行とただでさえ少ない顧客を取り合っているところに、融資だ送金だでFintechが更に市場を奪っていく。
上にも横にも斜めにも敵が多すぎる。
メガバンクの大規模人員削減に思うこと
上記は最初のリンクの再掲ですが、三菱UFJは、RPAを中心とした事務の効率化で莫大な事務工数(3,000人分)を削減し、本部の人員を営業や海外に回していく予定。
さらに、メガバンクと言えば1,000人規模の大量採用ですが、この採用数も半分近く減らしていくとのこと。
これを見ると「いよいよRPAが人の雇用を直接的に奪ってきたな」という感想は当然真っ先に出てくるんですが、反対の面もあるなと思っています。
RPAがやってきて「銀行が人を切る」より前に「人が銀行を切る」ということがそもそも起こっていたんですよね。
銀行員の転職が増えているというのも、今に始まった話でもなく、少なくとも1年以上前に以下のような記事が出たりしているわけです。
新卒就職ランキングも下がっていて、最新の結果では、メガバンクはTOP40に1行も入っていません。
5年前の調査なら、UFJの5位を最高に、みずほ、三井住友も20位以内には入っていたわけですから、かなり順位を落としています。
さらに後者の記事によれば、「敬遠したいランキング」の1位がメガバンク、3位が地銀・信金に入っている状況です。
前述のように、色々と言ってくる日銀や金融庁がいて、多くない顧客のパイを近隣の金融機関同士で奪い合い、更にFintech企業が市場を奪っていく。
「そもそも銀行員の仕事ってAIに置き換えられる部分も多いじゃん」という声もあり、「オワコン化」の声が日増しに強くなっているわけです。
その結果、人材が集まらない、あるいは流出している現状です。
銀行も企業ですから、単なるリストラだけでなく、将来に備えて「最小限の体制で回せる組織」を作っておかないといけない部分もあるんだろうなと、銀行の置かれた経営環境を思いながらしみじみ考えていました。
※「UFJのリストラはRPAのせいじゃない、RPAは悪くない!」という主張ではないです。私は「ルーチンワーカーは淘汰される」と考えています。
三菱U○Jの本部人員削減の件、切られた本部の人間やそれを押し付けられた支店の阿鼻叫喚は然ることながら、人手を半減された本部が地獄絵図と化す未来も見える
— アルカニスト (@Alkanist398) 2019年4月28日
とはいえ、今回の人員削減施策で、UFJの現場が店舗も本部も大変なことになっていくのは目に見えていますし、さらなる離職の呼び水にもなるのは間違いないでしょう。
そして今後、RPAだけでなくAIがより本格的にビジネスに普及していけば、銀行以外の業種でも、大きな動きが増えていくと覚悟を持たねばなりませんね。